パソコン通信とインターネット

1990年代半ばの日本では、この二つが同時に存在していた。どちらも電話回線でつなぐ文字中心の世界だが、 決定的に違ったのは「誰かの承認が要るかどうか」である。その一点から、名前の付け方も、 場所の作り方も、消えるときの消え方も分かれていく。

どちらが優れていたかを決めるページではありません。前提が違うものを並べて、 違いがどこから来ていたのかを見ます。

観点パソコン通信インターネット
始めるまで会社に入会を申し込み、IDと初期パスワードが郵送されてくるのを待つ。会員でなければ何も読めないプロバイダと契約すれば、あとは相手が誰であっても見に行ける。入会した先が世界の範囲ではない
読めるもの同じ会社の会員が書いたものだけ。別の会社の掲示板は、隣にあっても読めなかった誰がどこに置いたものでも。書き手と読み手が同じ事業者と契約している必要がない
場所を作るときフォーラムやSIGは運営が用意し、承認された管理者(シスオペ)が運営した。 新しい話題の部屋を作ることは、申請して通す種類の行為だったサーバを借りれば誰にも断らずに始められる。承認する主体がそもそも存在しない
名前ハンドルはIDと結びついており、同じ場所では同じ名前で通し続ける。 運営は本人を知っているので、完全な匿名にはならないサイト名も掲示板の名前も自己申告。後の匿名掲示板は、この前提の上に成立した
料金接続料と電話料金の二重の従量課金。読む速度がそのまま金額に響いた同じく従量だが、テレホーダイの時間帯に集中することで実質的な定額運用が可能だった
探し方メニューの階層を上から降りる。番号を覚えている常連ほど速く着く検索する。1997年にロボット型が実用になり、階層を知らなくても目的地に着けるようになった
残り方会員でなければ読めないため、外部の記録に残らない。サービスが閉じると画面ごと消えるURLがあれば誰でも辿れ、第三者によるアーカイブの対象にもなる
終わり方会社が畳めば、そこにあったものが一度に消える。移行先があっても密度は再現されないサイト単位で消える。全体が同時に無くなることはない

編集部の見立て

インターネットがパソコン通信に勝った、という語り方はこの二つの関係を取り違えている。 日本で両者が並んでいた時期、伸びていたのは実は両方だった。 1996年6月調査の全国パソコンネット局の会員数は573.2万人で前年同期比55.4%増、 翌1997年6月には789.4万人。同じ時期にインターネットのホストコンピュータ数も倍々で増えている。 片方が伸びたから片方が減った、という単純な関係ではなかった。 分かれ目は数ではなく、承認が要るかどうかという一点にある。 パソコン通信では、部屋を作るのも管理するのも、誰かが認めるという手順を通った。 その手順があったから秩序が保たれ、同時に、その手順があったから広がる速度に上限があった。 インターネットには認める人がいない。だから玉石混交になり、同じ理由で止められなくなった。 興味深いのは、言葉のほうが先に引っ越していたことである。 ROM専も、ネチケットも、ハンドルという名乗り方も、 もともとは会員制のネットワークの内側で必要とされた語彙だった。 それらは会員制が終わったあともインターネットで使われ続けている。 制度は入れ替わったが、そこで身についた振る舞いは持ち越された。 日本のネットの作法が最初から妙に成熟して見えるのは、 すでに10年近く運用されていた場所から、そのまま人と語彙が移ってきたからである。

※ この節は事実の記述ではなく、当サイトによる解釈です。

出典

  1. 公的資料第1章第1節5(2)パソコン通信サービスの普及状況(平成9年版 通信白書)郵政省(現 総務省)
    1996年6月調査で全パソコンネット局の会員数573.2万人(対前年同期比55.4%増)
    確認日: 2026-08-16
  2. 公的資料(10) インターネットサービス(平成10年版 通信白書)郵政省(現 総務省)
    1997年6月調査の全パソコンネット局会員数789.4万人(対前年同期比37.7%増)、 1998年1月現在の日本のホストコンピュータ数 約117万台
    確認日: 2026-08-16
  3. 一次資料パソコン通信「PC-VAN」を育て上げたレジェンドが語る新サービス創出の秘訣!ビッグローブ株式会社(BIGLOBE Style) 2022-09-14
    SIG・CUG・OLTというサービス構成と、会員制ネットワークとしての運営実態
    確認日: 2026-08-16
  4. 報道ニフティ、19年間のパソコン通信サービスに幕ITmedia エンタープライズ 2006-03-31
    メール・フォーラム・掲示板がWebへ移行し、パソコン通信側の利用者が約2万人まで減っていたこと
    確認日: 2026-08-16
  5. 報道3月27日:本格的な日本語検索エンジン「goo」サービス開始ITmedia PC USER 2016-03-27
    1997年に日本語のロボット型全文検索が実用になったこと
    確認日: 2026-08-16